初見さんいらっしゃい。

小説


 

『あなたの声を聞いて、好きになりました』

 

そんなことを言われたのは、インターネットの音声配信中。

今やネットはどの人も当たり前に使っていて、20過ぎの僕も毎日利用している。

 

アニメや漫画が好きだった影響から、声優さんにもハマりだし、僕でも出来るんじゃないかとマイクを買い揃えた。

初めてネットで喋った。緊張から声が震えてしまい、変な汗もかいていた。

変にかまえず、でも見てくれる人にはその期待に応えたくて一生懸命だった。

録音した音声を確認してみたら、どうやら普段自分が意識している声とは違うらしい。

お世辞なのか、この世界(音声配信サイト)では取り立てて普通の声をイケボ、カワボと言って楽しむ風潮がある。

 

きっと声を聞く側は、小説を読んだ時にキャラクターをイメージするように、声を聞いて僕たちをイメージするのだ。

だから、顔を晒そうものならきっと聞いてくれる人も去っていくに違いない。

 

普段ろくに女性と会話も出来ない僕は、ネットの中だったら分け隔てなく会話が出来る。

その高揚感から週1予定だった配信が、3日に1回、2日に1回、気付けば毎日と頻度も多くなっていく。

 

そんな中、初めて聞いてくれた人の、たった一言のコメントがどうにも頭から離れない。

好きになってくれた。お世辞かもしれないけれど、とても嬉しい。

それから毎日、その人とこの世界で会うことが楽しみになっている。

 

いつか会えるだろうか。会話が出来るだろうか。好きになれるだろうか。好きになってくれるだろうか。

そんなことを思いながら、今日もネットの世界で語り掛ける。

 

僕の声は聞こえますか。

 


«
»

コメントを残す